”症状は長く、余命は短く”

母のクリニックを手伝っていた頃の話です。

風邪の患者さんに「今日一日は熱が出ます。場合によっては明日も出るかもしれません」と説明しました。

その患者さんが診察室を出て行ったあとに、母から「あの説明は良くないわ。”熱は2日間出ます。”と言い切りなさい」と言われたことがあります。私は当然「2日間熱が出るとは限らないから言い切るのはどうかな」と言い返しました。 すると「2日間熱が出ると言われて、1日で下がった患者さんが怒ることはないでしょ。むしろ先生には2日出るって言われたけど1日で下がってよかったって思うはずよ。場合によっては先生の薬が効いたお陰って感謝されることもあるわ。でも、その逆に1日で下がるっていって、2日間熱が出たら患者は心配するし、薬が効いていないんじゃないか、医者がヤブなんじゃないかって思うわ」といわれたのです。つまり、その症状が1日で収まると思っても少し長めにいっておくことが大切だということでした。

でも、すべての症状や予測を長くいえばいいわけではありません。短く言うべきなのは「余命」です。あと1ヶ月の命と言っておきながら、1週間で亡くなってしまったら家族にとってはがっかりするばかりか、医者に対して不信感をもつ可能性もあります。

在宅医療では病院から末期癌の患者さんが紹介されてきますが、病院の先生からちょっと長めの余命宣告を受けていることがあります。4ヶ月といわれていて、実際には1~2ヶ月だったりすることも少なくありません。そうしたなかにはご家族から私たちに不信感を持たれたり、在宅にしたのがいけなかったのではとご家族自身が後悔されることもあります。

私たち医療者のためだけではなく、患者さんやご家族の安心や後悔させないために、

”症状は長く、余命は短く”

なのだと思います。