死生の価値観:急性期病院と在宅医療の違い

在宅医療と急性期病院での、最も大きな違いは「死生」に関する価値観だと思います。

急性期病院において「死生の価値観」とは、「一分一秒でも命を延ばすことが人の普遍的価値である」といった原則があり、そこで働く医師たちにはそれが共通の価値観となります。もちろん必ずしもそれだけではないことは彼らも知ってはいますが、急性期病院というものが成り立つためにはその共有化された価値観が絶対的に必要です。

たとえば、認知症のご老人が徘徊しているときに車に轢かれて救急病院に運ばれたとします。瀕死の重傷で今すぐ治療を開始しなければ助からないとします。このとき、本人に意識がないあるいはまともに返事することができない状態で、家族とも連絡が取れないとき、この共通価値観がないと、「こんなひどい認知症の老人にこれ以上つらい思いをさせる治療が必要なのか、人道的正しいのか」といった議論が起きかねません。

在宅医療はどうかというと、必ずしも長生きすることが価値観と考えるわけではなく、残された命での生活の質(QOL)と治療の困難さを天秤にかけ、「たとえ命が短くなってもQOLが上がる事が重要」という価値観なのです。

しかし一方で、在宅医療ではその天秤でどちらが重いかを医師が判断するわけですが、実はかなり”神”の領域に近い場合があります。これが最も我々在宅医療を行う者たちが苦悩することになります。在宅医療は古くて新しい分野であり、悩み多き仕事です。